にわたずみの
虹を詠みたる
生徒いて
俄に風は
薫りもちたり
手の平に
豆腐をのせて
切るわれを
給食帽の児らが
見守る
味噌汁が
今日は
一匙飲めました
日記に記す
大きな文字で
幼子の
重さで母は
抱かれて
棺の底に
一人置かれる
窓際の
ロッキングチェアー
ゆれてゐて
香月泰男の
語る戦争
すがすがと
五行に記す
非正規に
働く五十余年の
履歴
夕羽振る
浪こそ来寄せ
白浜に
墨字〈ふ〉を描(か)きく
海鵜羽撃(はたた)く
多忙なる
息子のライン返信は
いつでも
何でも
「了解しました」
間仕切りもなく
対面のできた母
息せぬ身体
なって
ようやく
「転ばぬよう」
亡母(はは)のいつもの
声がする
出掛ける我の
あとを追いかけ
個性ある
絵手紙つづる
ばばどちに
認知の風も
遠廻りする
ゆっくりと
覚醒してゆく
耳底に
ひぐらしひとつ
鳴きはじめたり
花(く)林(わりん)
糖(たう)はかりりと
噛める蒲鉾は
かなり手ごはい
初めての義歯
西瓜をば
レモンと答う
母なれど
九十四歳
笑いて迎う
胎内に
私を残し
出征す
父の残した
私は征子
食い違いあれど
八十路過ぎ
ほんのりと
コーヒータイムは
黄菖蒲の庭
包丁を
あてると
パキッとひび割れて
しぶき飛び散る
初生り西瓜
水色の
浴衣の
切手貼られいて
封切る前に
気持ち受けとる
Uターンし
まだ馴じめない
近所の目
たとえば洗濯物を
干すとき
風にさやぐ
茅花しゃららら
夕暮れが
にぎやかすぎて
まだ帰れない
お帰りと
灯す迎え火
ゆらゆらと
揺れて私は
あなたを感じる