山口県歌人協会

やまぐち2023短歌大会入賞作品

やまぐち2023短歌大会
第59回山口県歌人協会短歌大会結果

山口県知事賞

永井すず恵(光)

向日葵の天辺の
 今朝の蒼穹を
  地底へと    
蟻は持ち
  帰りゆく 

山口県議会議長賞

兼平 敦子(周南)

幼らの
 黄色き傘が
  くるくると
田んぼの畦を 
 かがみてはゆく  

山口県教育委員会
教育長賞

吉村 京子(光)

ジグソーパズル
 埋まりゆく
  ごと高層の
マンションの
  灯の点りはじめる

日本歌人
クラブ会長賞

梶山 英彦(下関)

われの手を
 甘噛みしつつ   
  ノブの振る
尾に集まりぬ
  秋の夕光

山口県歌人協会
会長賞

木村 桂子(岩国)

社会人に
 なったばかりの
  子のコロナ
三日目やつと
 既読がついた   

山口県歌人協会
会長賞

木村 桂子(岩国)

万緑の
 たたるみどりを
  キャンバスに
野良着のわれは
  鍬振り上ぐる  

藤本喜久恵
選者賞

岡山 節子(岩国)

八十半ば
 両手を広げ
  眺めおり  
 頑張った右手
   助けた左手  

山本寛嗣
選者賞

世良 弘美(防府)

菜園に
 熟るるトマトを
  食卓に
添へて華やぐ
 一人の朝餉    

高崎淳子
選者賞

向井 桂子(岩国)

田んぼには
 余すことなく
苗植わり
 満ち足るという
  風景である   

入選

谷岡計甫(山陽小野田)

三人の黒子は
 景色にとけ込んで 
  人形は  
ひとり
 動きだすなり

入選

兼平 敦子(周南)

潮引きて
 馬刀貝の穴を
  数えゆく
幼らの声
「ひゃあ/\」と響く

入選

山本 洋子(光)

聞こえずとも
 聞こえたふりの  
空返事
 母との会話の
  続かぬ夕べ

入選
中村 正規(防府)

男爵を
 梅雨の晴れ間に
  掘り上げて
 筵干しする
    屋垂の陰に  

入選
宮崎 稔子(防府)

雨粒に
 世界が宿るといふ  
  法螺を
ころがしながら
 しげる葛の葉

入選
百田 昌子(下関)

「この年になれば解る」
 と姑(はは)言い
  きその吾(あ)も
孫へ
 また菓子送る

入選
西村 博子(岩国)

愛想よく
 喋る相手に
  どなる夫
受話器に向かって
 「お前は詐欺か」  

入選
正木 紀子(岩国)

篝火に
 川面ゆらめき
  舟端に
 鵜飼の鵜らは
  出番待ちをり   

入選
金丸 洋子(下松)

我が胸の
 涙の谷に
  生(あ)れつぎし  
 人恋うる波
  人憎む風

入選
有海 静枝(下松)

おはようと
 トマト頂く
  田舎道
それだけのこと
 良い日の予感   

入選
世良 弘美(防府)

「あれ、それ」で
 会話通じし
  夫逝きて
 けふも無言の
   ひと日が暮るる

入選
有馬美智子(周南)

園児らは
 時に小さき
  ライオンで
 檻なき原に
  大声を出す   

入選
竹重惠美子(防府)

膝上の
 ミニスカートはき 
  闊歩した日
 今杖をつき
  大股で往く

入選
森田アヤ子(岩国)

ストローを
 抜けば
 おんなじことなのに
目を刺してない
 目刺しを選ぶ

入選
松尾 宏子(岩国)

卒寿
 我スマホ入門
  はじめたり
難解なれど
 楽しみもある   

入選
清木 幸 (下松)

蓮池の
 浮葉の間に
  茎のばし
巻葉はひらく
 梅雨に入りたり  

入選
吉村 京子(光)

こそばゆい
 風をこらえて
  新緑の
山は吹き出しそうに 
 ふくらむ

入選
金光紀代子(岩国)

真夏日に
 命養ふ
  厨ごと妣(はは)に
倣ひて
 茶粥を炊ぐ