今日までの
罪は許すと言うが
ごと百日紅の
花揺れ
止まぬ朝
ねこ車に
コンテナ載せてく
曽孫のせ
朝露ひかる
みかん畑へ
面会の度に
寒いと
言ふ母よ
今年の猛暑を
一日も知らず
パレットの
青溶きゆくに
溶け切れぬ
父征き逝きし
深き海
潦に
エンジェルラダー
映りたる
三八月の空こそ
静かなるもの
亡き母の
アルバムに
あり笑みふふむ
特攻兵の
小さき一枚
対向の
運転手さんも
笑ってる
おそらくラジオの
同じ漫才
相聞の
音声(おんじょう)
すずしくふる雨は
ふたつ水輪を
つと寄り添わす
故郷という
ジグソーパズルに
時は経ち
吾というピースの
場所はもうない
田んぼには
余すことなく
苗植わり
満ち足るという
風景である
急速に
この世の中が
変わっていく
ついていけないが
困ってもいない
「汁にでも」
百足藻葉を
差し出して
ほほゑむ男の
あかがねの照り
わが腕を
たった一針
刺しただけ
叩かれし蚊の
むくろのひとつ
古びたるく
電話ボックスに
灯が点り
「利用できます」と
貼り紙ありぬ
この地球
誰のものぞも
虫の音の
聞こえてきたり
八月の真夜
再発の
癌に
天命知りし甥
治療も断ちて
残る日を生く
官舎にて
マタニティドレスが
廻ってたかの年
Aさん
次はBさん
せめてもと
介護ベッドは
庭向きに
ひと月ぶりに
夫退院す
雨あとの
路地に夏草
におい立ち
ひと時私は
あの日の少女
ひきだしを
覗いてごらんと
囁ける星と
三日月
わが窓にありく
亡き夫の
言伝て一つ
携へて
とんぼがすいと
われに寄りくる
スーパーの
食品売場に
米の消ゆ
豊葦原の
瑞穂の国の
海風を
ひらりと
躱し舞う蝶の
翅色深しく
摩文仁野(まぶにの)の秋
朝風に
露おく庭の
芝踏めば
たまゆらこぼす
ミクロの光
日溜りに
転た寝すれば
掛けくれる
母の匂いの
ダウンのコート
ひとり居の
気ままな
生活今日もまた
七月の雨
降りやまぬなか
突然に
病告げ
こ来し歌の
友とき経ちしかば
か離れ果つるなり
朱をおびる
雲が植田の
水に映え
鷺一羽立つ
夏至の日の暮れ
急速に
この世の中が
変わっていく
ついていけないが
困ってもいない
「汁にでも」
百足藻葉を
差し出して
ほほゑむ男の
あかがねの照り
わが腕を
たった一針
刺しただけ
叩かれし蚊の
むくろのひとつ
古びたるく
電話ボックスに
灯が点り
「利用できます」と
貼り紙ありぬ
この地球
誰のものぞも
虫の音の
聞こえてきたり
八月の真夜
再発の
癌に
天命知りし甥
治療も断ちて
残る日を生く
今はなき
友も一緒にく
写りいる
キスゲ花咲く
尾瀬の木道
屋上は
風の軌道ぞ
車椅子
置いてさあ飛べ
あの月目指し
三十八度の
暑さを知らぬ
亡き夫の墓石を
洗う地下水
汲みて
靴ひもを
結びなおして
歩きだす
萩往還の
維新の道を
海を見る
浜辺の墓に
母を置く
父のとなりの
少し奥へと
じいちゃんに
逢いに来たよと
孫娘
遺影の前に
東京バナナ
顔見ずも
言葉によりて
恋をして
ロマンス詐欺に
かかる寂しさ
墓地の場所
決めるは早いと
云いたるに
今日は拾いぬ
夫の遺骨を
車間距離が
我とは違う間隔で
運転するより
疲れる
助手席
心まで
私をのぞく
青空に
帽子を深く
かぶって歩く
桑の実は
母を待つ味
桑の葉は
蚕食む音
遠き日のこと
そら豆と
蕗が
アップルパイとなり
戻りてきたり
春のできごと
「菜の花は
春の色だよ」
と幼持つ
黄のクレヨンは
短くなりぬ
いづくにて
長引くならむ
盆経の
僧の予定の
五時は過ぎつつ
呼びとめて
大根二本
抱かす友
夕映えの道
ほこほこ歩く